「こんな夜中にコンビニか。昔はほとんど家に篭りっきりだったのにな」
言いながら、ブラリと近寄ってくる。
「お前、こんなところで何を?」
「そんな怖い顔すんなよ」
片手を振って瑠駆真を制し、あと数歩というところで歩みを止めた。
向かい合う二人。
「僕に、何か用か?」
声が掠れそうになるのは、怒りか? 母親を思い出させる小童谷という存在への憤りか?
わからない。
ただ、この小童谷陽翔という人間は、好きになれそうにない。
大きく息を吸って相手の出方を伺う瑠駆真の態度に、陽翔はひょいっと片眉をあげた。
「お前に会いに来たのさ」
「は?」
「別に恋しくて眠れないってんじゃないぜ。俺にその気はない」
「冗談に付き合っている暇はない」
「冗談が通じないのは、相変わらずだな」
小バカにしたようにハハッと笑う。
何を考えているのかわからない、掴みどころのない相手の存在が、余計に苛立つ。
「僕がこの辺りに住んでいると、よくわかったな。しかも、この時間に出てくる事までお見通しか?」
「まさか。お前がこの時間にコンビニへ出かけるとは思っていなかったよ。ここで会えたのは偶然。ただ、家の場所は大体わかっている。柘榴石倶楽部の一人が快く教えてくれたよ」
わざわざ石榴石の連中に聞いたのか。そこまでしてなぜここに?
「会いには来たが、会えるとは思っていなかった」
「無理をして会う必要はなかったと言うことか。なら大した用でもないんだな」
ビニール袋を持ち直し
「僕は早く帰りたい」
そう言いながら、相手を避けようと一歩動かした足の先を、小童谷が遮る。
「金本緩は、撤回はしないぜ」
無言で自分を睨み返す視線に口の端を上げ
「今朝、金本緩の兄貴がくだらないデマを吐いただろ?」
と続ける。
「金本緩は、殴られた事実を撤回する。そんなような事を言ってたよな?」
確認するような言い草に、瑠駆真は無言を貫く。陽翔としても返事を期待していたわけではないのだろう。大して間も置かずに言葉を続ける。
「夕方、学校で彼女に会った。撤回するつもりはないと言っていたよ。夕方と言っても、もうかなり薄暗くなっていた頃だったな」
どう反応すれば良いのだろう。
そんなはずはないと反論すべきだろうか? だが、反論できるだけの材料を、瑠駆真は持ち合わせてはいない。
金本緩が撤回する。その理由を、瑠駆真は聡から教えられてはいない。詳しい内容は企業秘密だとはぐらかされた。
結局何の反応も見せない瑠駆真に、陽翔は苦笑する。
「何? そんなに驚く事? 金本緩が絶対に撤回するという根拠でもあったのか?」
あるのなら聞いてみたい。
そう言いたげな相手の仕草が、瑠駆真の感情を逆撫でする。
「ずいぶんと、楽しそうだな」
「あぁ 楽しいよ」
あっけらかんと肯定するのだ。瑠駆真がその態度を責めたとて、文句は言えまい。
「何が楽しい?」
陽翔はツイッと顎をあげる。
「何がそんなに楽しいんだ? 美鶴の謹慎がそんなに楽しいか?」
「正直なところ、俺は彼女には関心もない」
「じゃあ、何だ?」
瑠駆真が一歩前へ。
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